洗いを究める
[2024年10月31日]
だいぶ久しぶりとなってしまいましたが、トリングブログのほうもがんばって更新したい
と思います。今回は現在当院で行っているトリミングについて少しご紹介させていただき
たいと思います。
トリミングでは、”洗い”がとても大事だと言われています。
きちんと”洗い”が出来ていればカットをきれいに仕上げることができます。
しかも、洗いがしっかり出来ていれば乾きも早くなり、カットもしやすくなることに
よって、施術時間がかなり短縮できます。これは、施術するわんちゃんへのストレスを
減らすことにもなります。特に足腰の弱っている老犬や心臓病、関節炎などの病気を持った
わんちゃんたちには時短は必須です。
この”洗い”のことをペットトリミングでは、ベイジングと言います。
ベイジングとは、Bathingと書いて入浴するという意味ですが、ペットトリミング
においては、シャンプーとコンディショナーを含めた洗いのことを指します。
広い意味では爪切りや耳掃除、肛門腺処置を含めたカット前の一連の作業のことを言います。
アメリカのトリミングサロンでは、ベイザーと呼ばれるベイジング専門の人がいます。
アメリカでは、有能なベイザーは給与も相応の金額をもらえる立派な技術職として
扱われるそうです。それだけ、きちんと”洗う”ためには技術が必要だということです。
当院では、昨年の4月に今までの従来のトリミングにスキンケアの理論を取り入れて
メディカルトリミングとしてリニューアルいたしました。その際、大きく見直したのが
”洗い”です。シャンプーやコンディショナー製剤の選択に始まり、洗い方、各製剤を使う
順番、回数などのベイジングの工程自体の変更まで行いました。
ベイジングの工程の中で一番大事なのは汚れをしっかりと落とすことです。ベイジングの肝は
ここだと言っても過言ではありません。きちんと洗えていないと、この後のドライ、カットの
各作業に支障をきたします。
まず、シャンプーを下洗いと仕上げの2段階に分けました。下洗いシャンプーは汚れをしっかりと
落とすことが目的であり、仕上げシャンプーは被毛の状態を整えてきれいにカットしやすくする
ことが目的となります。
下洗いシャンプーは皮膚や汚れの状態によって使い分けるため、界面活性剤の種類の異なる3種類を
取り入れました。高級アルコール系、石鹸系、アミノ酸系の3種類です。
高級アルコール系のシャンプーは、洗浄力が強いが刺激も強いのが特徴です。アミノ酸系の
シャンプーは、洗浄力が弱いが刺激も弱いのが特徴です。石鹸系のシャンプーはその中間の
特徴を持っています。皮膚に問題がないわんちゃんや汚れのひどいわんちゃんには
高級アルコール系のシャンプーを選択します。アトピー性皮膚炎や乾燥肌のわんちゃん、子犬
などの肌の弱い子にはアミノ酸系のシャンプーを選択します。
もともと皮膚病の治療として行う”薬浴療法”では、皮膚の状態により界面活性剤の種類を選んで
行っていましたが、メディカルトリミングへのリニューアルに伴って、一般のトリミングの
わんちゃんにも適用することにしました。
仕上げ用シャンプーは、カット犬種かどうか、つまりトイプードルやビションフリーゼなどの
ボリュームを持たせたい犬種か、シーズーやヨーキーなどのストレート系の犬種か、柴犬や
ポメラニアンなどのダブルコート種か、またオイリーかドライかの肌質や被毛のダメージ具合
や白系統、黒系統、茶系統かによっても使い分けられるように10数種類を厳選しました。
仕上げシャンプーはその子その子により変えています。同じ子でもその時の毛質や被毛の
状態によって変えることもあります。また、毛のボリュームを出したいときや逆にボリュームを
抑えたいときには、それぞれの目的に合ったシャンプーを選択します。
コンディショナーとトリートメント製剤も見直しました。毛はシャンプーによる洗浄やブラッシング、
ドライヤー、紫外線への暴露などの外的刺激が加わると、最外層のキューティクルがダメージを
受けます。その結果、ツヤや滑らかさを失い、シャンプー後にきしみが生じて、変色や切れ毛が
生じやすくなるとされています。これらのダメージを修復、補修するのが、コンディショナーと
トリートメントです。また、毛のもつれを予防したり、静電気を抑えたりする効果や毛の表面を
保護する働きもあります。コンディショナーとトリートメントはそれぞれの成分が作用する場所が
異なります。コンディショナーは毛の表面だけに作用しますが、トリートメントは毛の表面だけで
なく、毛の内部にまで浸透してダメージを修復する成分が含まれています。
コンディショナーとトリートメントもシャンプーと同様に10数種類を用意しました。
毛の状態やカットのためのボリューム調整(ふんわり仕上げたいかしっとりとさせたいか)
ダメージコントロールに特化したもの、指触りをさらさらにさせたいなどの希望する仕上がり
の違いにより使い分けています。あと、オプションになりますが人間のサロンでも使用されて
いる炭酸トリートメントも新たに導入しています。これは通常のトリートメントとは使い方が
異なり、カットまですべて終わった後に仕上げとして被毛全体にスプレーするコートトリート
メントです。この炭酸トリートメントは、傷んでアルカリ性に偏った被毛に高濃度の炭酸ガスを
使って弱酸性に戻し、保湿成分やタンパク質などの栄養分を浸透させやすくします。さらに
キューティクルのめくれを補修してラノリンなどの油分でコーティングすることでツヤのある
指触りの良い被毛にさせる効果があります。加齢などによってハリとコシのなくなった被毛や
パサついてツヤのない傷んだ被毛のワンちゃんにお勧めです。指どおりが良くなりさらっとした
被毛になります。
シャンプーとコンディショナー、トリートメントが終わったら、最後に保湿剤をすべてのわん
ちゃんの仕上げに使用します。シャンプーをすると、皮膚の表面にある皮脂膜という層が除去
されてしまいます。この皮脂膜は、皮膚表面に存在して体の水分が蒸散しないようする働きを持って
います。シャンプーをすることによって除去された皮脂膜が再度形成されるまで8~12時間かかると
されています。コンディショナーやトリートメントは毛に作用する製剤なので皮膚にはほとんど作用
しません。ですので、シャンプー後の皮膚バリアの補修や回復を助けるためには保湿剤によるスキン
ケアが必要となります。そのため、当院ではシャンプー後には必ず保湿剤を使用するように
しています。保湿成分にはいくつかありますが、保湿作用の高いセラミド製剤をメインに用いて
います。
と、ここまで長くなりましたが当院でのメディカルトリミングにおけるベイジングについて
お話させていただきました。いかがでしたか? とはいえ、大まかなところだけでしたが。
”洗い”はいろいろ奥が深いです。製剤の違いだけではなく、洗い方でもかなり仕上がりに差が
でます。
この度のリニューアルでいろいろと参考にさせていただいたのは、現役のトリマーさんが
行っているシャンプーセミナーです。何人かのトリマーさんのセミナーから、いいとこどりを
して当院に合うようにアレンジをさせていただきました。正直、獣医師の行うシャンプーセミナー
より勉強になりました。獣医師のセミナーは”ザ・理論”って感じですが、トリマーさんのセミナー
は”ザ・実践”という感じです。話を聞いていると皆さん、トライ&エラーを繰り返し、日々試行錯誤
して業務をこなしているんだと感心させられます。
ちょっと余談になりますが、今回のリニューアルにともなって、もう1つ副次的なメリットが
ありました。それは手荒れがほとんどなくなったということです。これ、実はめちゃくちゃ
うれしいことです。
私は獣医師ですが、基本的には薬浴治療のシャンプーはすべて自分でやるようにしています。
それは治療効果を実感したいということと、よかったときは何がよかったのか、悪かったとき
には何が悪かったのかを自分で把握したいからです。メディカルトリミングにリニューアルして
からは、新しく導入したシャンプーの仕上がりを知りたいということもあり、時間があれば一般の
トリミングのわんちゃんのシャンプーもするようにしています。日本中でも最もシャンプーをして
いる獣医師の一人かもしれません(笑)。で、シャンプーしていると以前だとかなり手が荒れて
困っていました。冬なんか特にひどくて手術前の手のアルコール消毒は地獄でした。
診察中に先生手痛そうですねと言われることもありました。それがベイジング工程の変更をして
から、手荒れがほぼなくなったんです。トリミングスタッフあるあるですが、手荒れはある意味
トリマーさんの職業病といっても過言ではありません。おそらくですが、シャンプー剤の変更の
ためというより、洗い方の変更のおかげではないかと思っています。
洗い方の詳しいお話はしませんが、当院では機械を使ってしっかりとした腰のある泡を作って
洗います。この洗面器の泡は逆さまにしても落ちないくらいしっかりとした泡です。
基本的には洗う時にはわんちゃんの体を直に触ることはほとんどありません。泡で間接的に
マッサージして、水流で洗浄します。
あと大きな変更は、人のサロンでも実績のある洗浄専用の機械を導入したことです。鹿児島の
動物病院で導入したのは当院が初だそうです。デモで借りていたときに試しに自分の頭皮の洗浄
をシャンプーを使わずにしたところ、皮脂や汚れがかなりとれていたのに感動して数十万したの
ですが即決で導入してしまいました。実際に汚れのひどいわんちゃんをこの機械を使って
シャンプーなしでかけ流すだけでかなり汚れが落ちます。見た目がきれいなわんちゃんも
この機械でかけ流してみるとそこそこ汚れが取れてきます。下の写真は、シャンプーなしで
この機械を使ってかけ流しをした写真です。見た目はそんなに汚れている子ではありませんでした
が、皮脂汚れなどが結構浮いてきているのがわかります。
この機械の導入と直にごしごしとこすりつけるような洗い方をしなくなったことが、施術者の
手荒れの軽減につながったのかなと思っています。施術者の手荒れが減ったということは、
洗われるわんちゃんの皮膚への刺激も減っていると思います。不必要に触らないことによる
ストレス軽減効果もあるのではないかと思います。やるほうにもやられるほうにもメリットの
多い変更だったと感じています。
それでは、今回はここまで。皮膚にいいオプションもいろいろとありますので、また次回
時間があれば、ご紹介したいと思います。お楽しみに!