脱毛⑥

[2021年06月08日]

今回は脱毛の第6回目(副腎皮質機能亢進症の第5回目)です。

このシリーズは、今回で最終回となります。

今回は、皮膚症状を伴った自然発生クッシング症候群の実際の症例をご紹介させて

いただきます。一気に3症例ご紹介しますが多くなると思いますので、それぞれの

治療の話については今回は省略させていただきます。

 

症例①

ミニチュア・ダックスフンド  メス(未避妊) 6歳1カ月(当院初診時)

2歳から外耳炎があり、ずっと治療しているがなかなか良くならない。

2か月くらい前から、肩甲部に脱毛。外用薬(ステロイド、抗真菌薬)を処方され、治療して

いるがなかなか治らないとのことで来院されました。

初診時の写真です。

 

 

 

 

 

全体的に毛が薄く、皮膚も菲薄していました。

外観も特徴的でしたのでクッシング症候群を疑い、問診したところ

多飲多尿の症状もあるとの事でした。

特徴的な外観というのは、腹囲膨満です。お腹がぼてっとしているよう

に見えますが、これも副腎皮質機能亢進症に特徴的な所見です。

腹筋(骨格筋)の萎縮と肝臓の腫大、内臓脂肪の増加によってこのよう

な見た目になります。

超音波検査にて、左右の副腎の腫大が認められ、内分泌検査と合わせ技

で副腎皮質機能亢進症と診断しました。飼い主さんのご希望もあり、頭部の画像診断までは行いません

でしたが、副腎の両側性腫大が認められたので、下垂体性副腎皮質機能亢進症の可能性が高いと判断

しました。

 

症例②

ミニチュア・ダックスフンド オス(去勢済) 14歳3カ月(当院初診時)

1年前から、細菌性皮膚炎を繰り返している。抗生剤とノルバサンシャンプーで治療しているが

良くならない。加水分解フードにかえたこともあるがよくならなかったとのことで来院されました。

初診時の写真です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皮膚には細菌性皮膚炎が多数ありましたが、全身性の脱毛と皮膚の菲薄化も認められ、

問診にて多飲多尿もあったことから、副腎皮質機能亢進症が基礎疾患としてあり、

それに続発して膿皮症を繰り返しているのではないかと考えました。

症例①と同様に超音波検査にて左右副腎の両側性腫大が認められ、内分泌検査と合わせ技

で副腎皮質機能亢進症と診断しました。

犬の細菌性皮膚炎には、必ず基礎疾患が存在します。基礎疾患をそのままにして細菌性皮膚炎

の治療だけをしても決してよくはなりません。基礎疾患が継続する場合、細菌性皮膚炎は再発

を繰り返します。この症例は1年間ずっと抗生剤を飲み続けていましたが、細菌性皮膚炎はよく

ならず再発を繰り返していました。ちなみに抗生剤の使用歴が長かったので、副腎の検査と同時

に皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験も行いましたが、予想通り薬剤耐性菌が検出され、いくつか

の抗生剤しか効かない状態でした。

2症例ともミニチュア・ダックスフンドでしたが、ミニチュア・ダックスフンドは副腎皮質機能

亢進症が多いように思います。あと人気犬種なのもあるかもしれませんが、トイ・プードルでも

よく見られます。

 

症例③

ヨークシャーテリア  メス(避妊済)  12歳8カ月(当院初診時)

初発は3歳くらい 手足や脇、腹部、お尻を痒がる 徐々に悪化してきた

夏に悪化するが、症状はほぼ通年性

治療は、ステロイドと抗生剤 飲むとある程度は痒みは治まるが、0にはならない

4年位前から、脱毛の症状がでてきた  脱毛は徐々に広がってきている

甲状腺ホルモン検査をして甲状腺機能低下症と診断され、現在甲状腺ホルモンを内服中

初診時の写真です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレルギー性皮膚炎の治療とのことで予約を受けましたが、初見で内分泌疾患による

脱毛を疑いました。病歴からは、医原性クッシング症候群を疑いたくなってしまいますが

問診により、当院来院時1か月以上ステロイドの投薬はしていないとの事でした。

それでも、見た目の症状から内分泌脱毛が疑わしかったので、副腎の検査をさせて頂くこと

にしました。超音波検査と副腎の内分泌試験を行い、副腎皮質機能亢進症と診断しました。

これだけだったら副腎皮質機能亢進症の治療をしましょうとなるところですが、超音波検査にて

副腎の腫大以外に、右側の腹腔内に巨大な腫瘤病変を認めましたので飼主さんと相談して、

鹿児島大学で精査をしてもらうことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右側の腹腔内巨大腫瘤は、肝臓(外側右葉)由来で大きな血管を巻き込んでいるということと、

肝臓全体に腫瘤病変が散在していることから、外科摘出は不可能との判断でした。

あと、左右副腎の腫大と造影CT検査により下垂体の腫大も認められ、副腎皮質機能亢進症は

下垂体依存性であると診断されました。

 

自然発生クッシング症候群の3症例をご紹介させていただきましたが、いかがでしたか?

自然発生クッシング症候群による脱毛は、結構見た目が特徴的だと思いませんか?

この3症例は、脱毛という見た目で分かりやすい症状がありましたが、副腎皮質機能亢進症

には皮膚症状以外にも症状がたさくんあります。しかも、その症状の程度は差が大きく、

来院時にはっきりした症状がない場合もあります。はっきりしないあいまいな症状の時は

診断が難しくなります。そういったときは、あせらずはっきりした症状が確認できるまで

待つことも大事になってきます。

副腎皮質機能亢進症は、内分泌疾患の中でも遭遇する機会が多い病気ですので、長々となって

しまいましたがご紹介させていただきました。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、内分泌疾患による脱毛症の治療に

力を入れています。

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なお、皮膚科診療の初診は、時間がかかるため予約制とさせていただいております。

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お話とお薬の処方のみとなることもございますので予めご了承ください。