脱毛④

[2021年05月25日]

梅雨入りしてから雨ばかりですが、日曜は久々に梅雨の晴れ間でしたね。朝からいいお天気

で暑いくらいででした。今年の梅雨入りはかなり早かったですが、平成5年の8.6水害の時

も梅雨入りが早かったそうです。積算雨量もどんどん増えてきていますので、これから大きな

土砂災害が起きないか心配です。みなさんも土砂災害には十分気をつけてください。

 

さて、今回は脱毛の第4回目(副腎皮質機能亢進症の第3回目)になります。

副腎皮質機能亢進症は病態、検査、治療まで含めると内容が多いため、治療や検査などの

詳しいところはだいぶ端折ったのですが、それでもまあまあな量になってしまいました。

なるべくわかりやすいように書いたつもりですが、いかがでしたか?

今回は、クッシング症候群の実際の症例の中で皮膚症状のあったもののご紹介をしたいと

思います。

このブログを書くにあたって、うちでクッシング症候群の症例が何頭いたのか調べてみた

ところ、9年間で15頭いました。大体1年に約1.5頭という計算になります。

その中の約半分は医原性クッシング症候群でした。うちは皮膚の転院症例が多く、難治性の

アレルギー性皮膚炎で何年も良くならなかったというような症例を見ることが多いからかも

しれません。

あとは機能性副腎腫瘍が1頭で、残りが下垂体依存性副腎皮質機能亢進症でした。

文献でも医原性クッシング症候群が自然発生クッシング症候群よりも多く、自然発生は

下垂体依存性が副腎腫瘍性よりも多いということでしたので、うちでの内訳もほぼ同じと

いう結果でした。

 

それでは、実際の症例をご紹介いたします。

症例①

フレンチブルドック メス(避妊済) 6歳(当院初診時)

初発;1歳齢頃から痒みと皮膚炎が認められる 症状は徐々に悪化し、今は通年性の症状

痒みに対する治療は、外用ステロイドと、痒み止めのお薬の内服と注射。

4歳くらいから毛が薄くなり、脱毛が認められるようになる

➡甲状腺機能低下症と診断され、甲状腺ホルモン薬を投薬している

来院時の症状は、前肢後肢の指間炎、陰部周囲の皮膚炎。全体的に毛が薄く、左右耳介尾側面、

前胸部、下腹部、大腿部尾側面の脱毛が認められ、皮膚も若干薄くなっていました。

 

問診の内容と来院時の皮膚の症状から、痒みはアレルギー性皮膚炎からで、脱毛は医原性

クッシング症候群からきているのではないかと疑いました。甲状腺機能亢進症に関しては、

お薬により治療はされていますが、脱毛の改善はないためEuthyroid Sick Syndromeの状態

ではないかと考えました。

初診時に、一般皮膚科検査と医原性クッシング症候群の存在の有無を確認するためにACTH

刺激試験という内分泌試験を行うことにしました。

ACTH刺激試験の結果により、内因性コルチゾールがほとんど産生されていないことがわか

り、医原性クッシング症候群と診断しました。

治療は、体にある余分なステロイドを抜いていくことです。しかし、医原性クッシング症候群

では、外因性ステロイドの長期投与によって副腎の分泌予備能がかなり低下している状態、

つまり内因性ステロイドの産生が抑制されている状態になっていますので、急に休薬する

ことはできません。ステロイドホルモン自体は、ストレス状態になったときに体を守って

くれる大切なホルモンです。急に休薬してしまうと、体がステロイドホルモンを必要な状態

になったときに自分で分泌できないため、そのせいで調子が悪くなってしまいます。

もう少しわかりやすく説明させていただくと、外からステロイドがどんどん入ってくる状況

が続いていると、体はステロイドがたくさんあるので自分で作らなくていいやと勘違いして

サボりぐせがついてしまいます。この状態がしばらく続くと副腎は自分でステロイドホルモン

をほとんど作らなくなってしまいます。この状態で急に休薬すると、副腎にはブランクがある

ため、体がステロイドを必要としたときにすぐには作ることができません。そこで、サボり

ぐせのついた副腎がステロイドホルモンを作れるようになるまでリハビリをしてあげる必要

があります。つまり、自分でステロイドホルモンを作るようにやる気を出させるために、

徐々に投与するステロイドを減らしていきます。最終的に、自分でちゃんとステロイドホル

モンが作れるようになったところで休薬します。実際には、だいたい1か月くらいかけて徐々に

休薬していきます。

 

治療前                      治療後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、医原性クッシング症候群が落ち着いてから検査したところ、甲状腺ホルモンは

十分にあり、甲状腺機能亢進症はありませんでした。予想通り、ステロイドによる甲状腺

ホルモンの抑制をうけていた状態、つまりEuthyroid Sick Syndromeであったということです。

ここまで来たところで、あとはアレルギー性皮膚炎の治療に本格的に入っていきます。

こっちのほうは今回はメインではないので割愛します。

ちょっと長くなってしまいましたので、今回はここまでとさせていただきます。

残りの症例は、また次回ご紹介いたします。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、内分泌疾患による脱毛症の治療に

力を入れています。

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