皮膚科治療症例
[2013年08月23日]
今回も当院にて、治療した皮膚科症例のご紹介をいたします。
前回はアレルギー性皮膚炎の症例でしたので、完治しない皮膚病でしたが
今回は完治する皮膚病です。
●症例 バーニーズマウンテンドック 3歳 男の子(未去勢)
●病歴 1か月前より体全体を痒がる
皮膚掻把検査;陰性 数回行ったがすべて陰性
アレルギーを疑い、血清特異的IgE検査を行った
ステロイドの注射、内服薬 フロントライン塗布等の治療を行うがあまり変化なし
1か月ほど治療を行うが、変化ないためセカンドオピニオン希望にて当院来院
初診時写真
主病変は、左右耳介、左右肘、膝、腹部です。脱毛、紅斑、痂疲、腹部では丘疹も
認められました。
追加で、飼い主様へ以下の質問をしました。
●飼い主様の家族で痒みの出ている人はいますか? → はい、います。
●他にペットはいますか?その子に皮膚病はありますか?
→ はい、この子の皮膚病が出る前に飼い猫の顔にかさぶたがついていました。
ここまでの段階で、ある程度仮診断がつきましたので確認のために皮膚検査を実施いたしました。
皮膚掻把検査の所見です。
この子の診断名は”疥癬症”でした。左は疥癬虫体で、右は虫卵です。
この皮膚病は、ものすごく痒いのが特徴です。前の動物病院の先生も何回も皮膚掻把検査を
されていたことから、おそらく疥癬症を疑っていたのだと思います。何回検査しても出なかったので
おそらく次にアレルギーを疑ったのではないかと思われます。
この疥癬症は、アレルギーによく似た症状を示します。また皮膚検査ではなかなか診断できません。
皮膚掻把検査にて検出されるのは約20~50%とされています。さらにこの疥癬症は、アレルギー
の検査の時に行う皮内反応試験や、血清特異的IgE試験においても環境中のアトピーの原因と
いわれているハウスダストマイトに対して陽性結果をまねく可能性もあります。これは一部の症例で
疥癬とハウスダストマイトの間で交差反応をするためです。つまり、アトピー性皮膚炎と誤診しやすい
非常に怖い皮膚病です。
今回の場合、当院に来院された時にはかなり時間もたっており、さらにステロイドの使用により
疥癬ダニが発見しやすいタイミングでしたので、皮膚掻把検査にて確定診断できましたが
初期の段階で来院されていたら、おそらく当院でも皮膚掻把検査では疥癬ダニは出なかったと
思います。
では、皮膚掻把検査にて疥癬ダニが検出されなかったときにどうするのかというと、”治療的診断”
を行います。 つまり、疥癬ダニが検出されなくても疥癬ダニの駆虫薬を投薬して症状が改善されるか
どうかをみます。投薬にて症状が落ち着けば、疥癬症と診断します。
この疥癬症には典型的な好発部位があります。耳介、肘、膝です。この部位に皮膚病変がある場合で
激しい痒みが認められる場合、検査にてでなくてもまず疥癬症を疑っていきます。
最近では、典型的な症状がみられず、アレルギー性皮膚疾患と類似した症例も結構みられています。
このように非典型的な場所に病変がある場合、特にアトピー性皮膚炎の好発部位と病変部位がかぶる
ときには誤診する可能性が高くなりますので、この疥癬ダニの”治療的診断”は、アトピー性皮膚炎の
鑑別診断にも非常に大事です。
このような非典型的な症状を示し、皮膚検査でも陰性を示すような疥癬を匿名疥癬とか隠れ疥癬とか
忍者疥癬などと呼ぶ先生もいます。
では、今回の症例の治療開始から1か月後の写真です。
だいぶ発毛が認められました。痒みは全くありません。おそらく、もうしばらくすると毛は
生えそろうと思います。これで治療は終了です。
疥癬症は、初期の的確な治療で劇的に改善します。しかし、的確に診断、治療しないと
いつまでもアレルギーと間違ってしまう非常に怖い病気です。
もう1つ気を付けないといけないのが、治療にはある程度のリスクがかかるということです。
疥癬症の治療には、イベルメクチン、ミルベマイシン、ドラメクチンというお薬を主に用います。これらの
お薬はフィラリアのお薬としても用いられています。ですので、もしフィラリアに感染している
と治療が困難になってきます。また、コリーやシェルティなどの犬種で薬物代謝の遺伝子異常
がある場合、神経症状の副作用が出ることもあります。ただし、これらの遺伝子異常の出しやすい
犬種以外でも副作用の報告もされておりますので注意が必要です。お薬は、飼い主様と相談して
決めていくことになります。
前回も述べましたが、痒みと一言で言っても、さまざまな原因があります。同じ痒みという症状でも
原因により治療が全く異なってきます。痒みの原因を突き止めて対処しないと逆に悪化することも
多々あります。
今回は、状況証拠からすぐに確定診断にいたり、適切な治療により完治しましたが、難治性の
特に掻痒性皮膚疾患ではアレルギー性皮膚疾患が基礎にある場合が多く、確定診断に至るまで
いろいろな掻痒性皮膚疾患を除外していく必要があります。
その際、重要になってくるのが初診時の問診です。こじれている皮膚疾患ほど、今までの経過や
治療反応、検査結果等が非常に重要になってきます。
最近、当院でも皮膚科症例が増えてきましたが、一番困るのが経過が全く分からない人が代理で
つれてきたり、問診票を書いてきたがほとんど空白の場合です。私は、初診時の問診が診断の8割
を占めるくらい大事だと考えております。初診時の診察に1~2時間かけることもざらにあります。
ブログをみていただいて、皮膚の診察を希望される方はホームページにある”皮膚科問診票”を
前もって書いてきていただき、経過の分かる方に診察に連れてきていただくようお願いいたします。
また、経過の長い症例ほど初診時の診察時間が長くなることが予想されますので、できれば前もって
お電話にてご予約頂き、予約診療にて来ていただくことをすすめいたします。その際は、今までの
治療経過や検査結果などわかるものがありましたら、すべてお持ちいただけると助かります。
森の樹動物病院は、鹿児島で犬の脱毛と痒みを主訴とする皮膚病の治療に力を入れています。
遠方でも診察ご希望の方は、一度お問い合わせください。