会陰ヘルニア症候群 Part1
[2017年07月27日]
今月はネタがいっぱいあったので調子よく立て続けにアップしちゃいました。
で今回はといいますと、久々に病気についての内容でいきます。
”会陰ヘルニア”という言葉をきいたことはありますか?
開業してから、この”会陰ヘルニア”のセミナーにいくつか参加させていただきましたので
そこで学んだ内容を今回は紹介したいのですが、ボリュームがあるので、病態・原因編と
治療編に分けてお話したいと思います。
正確に言うと、”会陰ヘルニア”という言葉は病名ではありません。会陰部(お尻の横辺り)
という場所にヘルニア(臓器が脱出している状況)があるよ、という症候名のことをいいます。
つまり、会陰ヘルニアという名前は見た目を表わす言葉になります。
会陰ヘルニア症候群の病態としては、何かしらの原因によってまず肛門周囲の筋肉が薄くなって
くることから始まります。次に肛門挙筋が消失し、さらに尾骨筋が消失して、肛門括約筋が逸脱
します。このように進行していくと筋肉の消失した穴の皮下に腹腔内の腸や脂肪が入り込み、お尻の
辺りが膨らんで見えてきます。こうなって初めて飼い主がおかしいことに気づいて病院に連れて
くるということになります。
単にくぼみに腸などが入り込んで終わりではなく、この状況が続くことにより便の通過障害がおき、
便秘が起こります。便秘が続くと腸管が慢性的に拡張することになります。腸管が拡張し続けて
いると腸管が伸びる刺激によって引き起こされる排便反射に障害が起き、伸展刺激の入力が起こらな
くなります。こうなると排便という一連のシステムが行えなくなってしまいます。それだけではなく、
肛門括約筋の変移による腹圧の減弱や肛門挙筋の機能低下による肛門の逸脱が起こり、
生理的排便システムが崩壊することとなります。
さらに進行すると膀胱が入り込むこともあります。膀胱が入り込んだ場合、1週間程度で癒着して
しまうことがあるので準緊急手術となります。そのまま放置するとどうなるかというと、癒着して
次に組織壊死がおき、そこが線維化して残尿しやすくなります。そうなると進行性の膀胱炎となり、
さらに腎盂腎炎を起こしやすくなります。こうなると予後不良となります。
膀胱の陥入を放置していて壊死がひどい場合、尿管瘻や腎瘻、場合によっては安楽死を選択せざるを
えない場合もあります。
この病気が、ただ単に肛門の横の皮下に腸が入り込んで膨らむというだけの単純な病気ではないという
ことがわかっていただけたでしょうか?
また、これらの一連の流れを見てわかるように会陰ヘルニア症候群は、進行性疾患です。
放置していて、回復や現状維持は絶対にありません。つまりほっとけば悪化しかありません。
ひどくなってから手術を考えるというのはナンセンスです。
見つけたら、なるべく早期に積極的介入をしていく必要があります。
次に原因に入ります。
この病気は、未去勢雄で多いということが有名ですが単に雄性ホルモンの影響だけでなく
多因子性疾患であり、特に老化との関連が深いといわれています。ただ未だに不明な部分も
多い疾患です。
会陰ヘルニアを見つけた場合、まずはこの状態を起こしている元の原因もしくは悪化因子がないか
を調べる必要があります。もし元の原因や悪化因子が見つかった場合、まずそこの治療(手術)を
した上で会陰ヘルニアの手術をしないとただヘルニア孔を塞ぐ手術をしただけではすぐに再発して
しまうからです。
鑑別する病態は大きく3つあります。
①甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの筋肉の退行性変化を伴う疾患
②膀胱及び尿道の結石、炎症、腫瘍や前立腺の過形成、化膿性炎症、嚢胞、
腹腔内もしくは会陰部の腫瘍など慢性の腹圧上昇を誘発する疾患
③交通事故など外傷によるもの
ということで、上記の病態を見逃さないように、術前には直腸検査による触診だけでなく
血液検査、レントゲン検査、超音波検査による精査が必須となります。
会陰ヘルニア症候群という病気は、進行性疾患であるということがポイントです。
進行性であるということは疾患を時間軸で考える必要があります。このことは治療や予後を
考える上で非常に重要になってきます。
治療時に患者が今どの段階にあるのか、つまり残存している筋群がどれくらいあるのかにより
術式の選択が変わってきます。また、排便機能の残存程度や泌尿器の逸脱の有無により、術後の
飼い主によるペットの管理の仕方や予後の話も変わってきます。骨折の手術のようにくっついたら
はい終わりという風に簡単には済まないこともあります。
ちょこっと次回の治療編の予告みたいになっちゃいましたが、詳しくは次回の治療編でお話します。